南都 十輪院 奈良市十輪院町27 TEL.0742-26-6635

こころの便り

新年のご挨拶

令和4年1月1日

謹んで新年のご挨拶を申し上げますとともに、昨年も当山への多大なご理解とお支えをいただきましたこと、厚く御礼申し上げます。
昨年も、多くの新しいご縁を頂戴しました。頂いたご縁一つひとつが十輪院というお寺の存在意義と、そこで修行する僧侶の使命を明確にするものであると考えています。


多様性と調和・持続可能性が重要なテーマとなってきた今日、私たちには「共に支え合って生きる」ことを通じて、自らは「生かされ」、他者を「生かして」いることを、より身近に実感する必要があると思います。


十輪院の石仏龕には本尊地蔵菩薩(現在)を中心に、左に釈迦如来(過去)、右に弥勒菩薩(未来)が祀られますように、仏教ではよく、過去・現在・未来の三世を説きます。人間や物事は時の流れに存在しているのです。私たちは人生において過去に囚われ、将来に不安を覚えてしまいがちで、今この瞬間に意識を集中することを忘れがちですが、一方で、自分の生まれる以前(過去)や死後(未来)の事となると、途端に他人事のように感じてしまいます。誰一人として否定できないことは、先祖がいるという事実です。この先祖に対する報恩の行為を善行と説き、それによって祈る者自身が果報を受けると説きます。


法事の際などに読経をさせていただくことを、「回向(えこう)する」と言いますが、「回向」とは「回(めぐ)らし向ける」ことであり、成仏を祈って死者を供養するだけに留まらず、供養をした方が修得した善根のご功徳を、他に回らし向ける事までをも含みます。


『地蔵菩薩本願経』というお経には、「七分獲一(しちぶんぎゃくいつ)」として、追善供養による功徳の七分の一をご先祖様や故人様が受け取ってくださり、残りの七分の六は供養を施した施主様にお返しくださるという教えが説かれています。お返しいただいた七分の六の使い道としては「六波羅蜜」という私たちが現世でできる六つの修行方法が参考になるかもしれません。「六波羅蜜」とは、布施・持戒・忍辱・精進・禅定・智恵の六つを言います。


また、読経の最後に「願以此功徳(がんにしくどく) 普及於一切(ふぎゅうおいっさい) 我等與衆生(がとうよしゅじょう) 皆共成佛道(かいぐじょうぶつどう)」とお唱えします。「願わくばこの功徳をもって、遍く一切に及ぼし、我らと衆生と 皆共に佛道を成ぜん」という意味になります。


これらのお智慧を活かそうと、日常の行動に当てはめることは容易ではないかもしれません。しかし、例えばご先祖様の供養をしたことによって、お寺を通じて間接的にではあっても、現実にその善根のご功徳を形として受け取られる方がいらっしゃれば、先人たちが考え出された、ご供養の本来の意味(お智慧)にお気づき頂けるのではないでしょうか。


衆生の苦しみを代わりに受けながらも微笑みを絶やさず、仏縁の無い方さえもお救い下さろうとする地蔵菩薩様のご修行の、その僅か一部にでもご一緒させていただき、多くの方の慈悲の心が、必要とされる方に届くよう、橋渡しとしてのお役目を担えるのであれば、それが十輪院の存在意義の一つであるように思います。


皆様にとって「有り難い」1年となりますよう、ご祈念申し上げます。


十輪院 住職 橋本昌大

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