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こころの便り

納豆

最近はスーパーでもよく見かけ、食している人も多いようですが、10年ほど前までは関西ではあまり食べる習慣のなかった納豆が、それに含まれる酵素が脳血栓をおさえる効果があるといわれ、また健康食品ブームにのって今では一般的な食品になっています。


その納豆を私が目の当たりにしたのは京都・醍醐寺での修行僧時代、今から30年ほど前のことであります。それまでは私にとって「納豆」とは甘納豆のことで、これなら子供の頃から大好きでよく食べたものであります。臭くてネバネバしたのを見たときは、これが納豆かとつくづく眺めながら、とても食べられた代物ではないと思いました。


修行時代の食事は一汁一菜にも至らない内容で、おかず一品とご飯、それに漬物だけでありました。おかずに納豆が出たときは漬物しか食べることが出来ませんでした。それも1週間に一度は納豆が出てくるので、その度に子供の頃から食べる習慣をつけてくれなかった母を恨んだりもしました。


たびたび出てくる納豆を見つめながら、ある時一大決心をして一粒の納豆と口いっぱいのご飯をほおり込みました。次は2粒、次は3粒。いつかしら味が変わってきたなと感じました。1年間の修行が終わる頃にはさして好きではないけれど、どうにか食べられるようになっていました。


嫌いな食べ物でもそれしか食べるものがなければ食べられるようになるものです。今では毎朝美味しく食べています。


食べ物に限らず何でもそうかもしれません。いやな奴だと思ってもそいつと二人っきりなら、お互いに気心が知り合えて理解し合えるに違いありません。いやな仕事でもそれしかする仕事がなければ慣れてきっと得意になるでしょう。ブスな女性でもブ男でも見慣れたら可愛く感じられます。あっ、これは口が滑ったかな。まあそんな気持ちで何事にも接していけたらいいと思います。


ちなみに納豆の語源は寺院の僧坊である納所(なっしょ)で貴重なタンパク源として作られたことに由来します。


十輪院 住職 橋本純信

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