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こころの便り

般若心経

小学生の時、毎朝本堂でお経を唱えてから学校に行くのが私の日課でした。父から義務付けられた習慣でしたが、別にいやだと感じた記憶は残っていません。その時唱えていたお経は『般若心経』でした。


中学に進み、遅刻しそうな時間に起きる日が多くなるにつれてその習慣はいつしか消えていきました。高校生の時などは一度もお経を唱えたことがなかったように思います。仏教系の大学に入って、再び「般若心経」を唱えることとなりました。


6年間のブランクがありましたが、自分でも驚くくらい、ほとんど覚えていました。子供の頃の記憶はすごいと思います。大学入学当初、『般若心経』を空で唱えられた学生はわずかしかいなかったように思います。


お経といえば『般若心経』というふうに、このお経は広く知られ、よく唱えられています。お経は「八万四千の法門」というくらい膨大な種類があります。それらの多くは長文で同じ事の繰り返しが多く、読むにも唱えるにも大変な時間と労力を要します。


なかでも唐の玄奘三蔵(西遊記で有名)が訳した『大般若経』は600巻から成る一大叢書です。除災招福、鎮護国家などに有益であるとされ、わが国では奈良時代の頃から現在まで盛んに用いられています。


またこの叢書は、般若という智慧によってあらゆる事象は「空」「不可得」と感じて、実体を持たないものと理解し、何物にも執着してはならないと説かれたいくつもの般若経典を集めたもので、『般若心経』もその中に含まれています。


それは般若経典の中で最も短く、簡潔かつ明瞭に「空」の思想が説かれているとして重用されてきました。


しかし、『般若心経』を読まれたことのある皆さん、読んでいてその内容が理解できますか? 最近は解説書のようなものがたくさん出版されていますが、分かったような分からないような内容のものがほとんどです。


この経典は「五蘊」「受想行識」「苦集滅道」「無所得」「顛倒」「究竟」「涅槃」「三世」など、たくさんの仏教用語が使われ、また音訳と意訳が入り交ざって書かれています。読んでいてさっぱり分からないのが当たり前でしょう。さらに最後には呪文のようなものまで付いています。逐語的に理解しようとしてもまず無理でしょう。


「空」のおしえを大局的に把握しなくてはなりません。「5月の法話」に書きましたが、
『心に迷いがある時、悲しい時、寂しい時、辛い時、怒っている時、また嬉しい時、楽しい時、いつでもいいです。一生懸命唱えていると自然と精神集中ができてきます。そして、唱え終わった時、迷い、悲しみ、寂しさ、辛さ、怒りはなくなり、有頂天の気持ちもなくなります。気持ちが落ち着き、今まで気が付かなかった自分を発見します。』


これが「空」のおしえだと思います。 経典のおしえを頭で理解しようとしてはだめです。自分の身体で会得するものなのです。


十輪院 住職 橋本純信

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