南都 十輪院 奈良市十輪院町27 TEL.0742-26-6635

こころの便り

念持仏(ねんじぶつ)

令和元年7月2日

最近、「墓じまい」「改葬」という言葉をよく耳にします。石材店に聞いても新たな墓石の注文はほとんどなく、墓石処分の依頼が大半だという、嘆かわしい答えが返ってきます。


石材店だけではありません。仏具店もお仏壇の処分依頼がよくあるようです。当山にも仏壇やお位牌の処分依頼が多くなりました。古い仏壇、位牌だけでなく、真新しいものも目につきます。なぜこのような状況が生まれてきたのでしょうか?


石塔や仏壇は代々のご先祖をお祀りするためのものですが、核家族化、少子化の影響で「家」を護るという感覚が希薄になり、また子どもたちに負担をかけたくないという親心がそのような現実を引き起こしているといわれています。


平成の時代になってからこのような状況が生まれてきました。バブルの崩壊、リーマンショックなどによる経済的な問題が背景にあるともいわれていますが、もっと奥深い原因があると思います。
団塊の世代を中心にみられる神仏に対する信仰心の欠如です。彼らは科学に裏付けされたものだけを信じる教養を身に着け、目に見えないものは非科学的として目をそらしてきました。


その団塊世代が親を見送る年になって、なじみのない宗教に対して理解が得られず、宗教警戒心、寺離れ、直葬、墓じまい、仏壇じまいといった、昭和の時代にはなかった言葉を次々と生み出してきました。この意識が大きな変化をもたらしていると思います。


自宅には手を合わせる神棚や仏壇がなく、墓参りも年に数回では心を癒したり、自身を見つめ直す場所がありません。将来に対する見通しが見えづらい現代においては、今の自分をよく知ることが大切です。そのためには合掌して自分を見つめる機会が必要です。


仏壇に先祖の位牌を祀るという習慣は江戸時代の幕府の政策による檀家制度から始まりました。この習慣は本来の仏教に基づいたものではありません。それ以前は各自が「念持仏」を持つというのが一般的でした。自分の部屋に祀り、朝夕に手を合わせて感謝、反省、祈願をして自身の心の拠り所としていました。


念持仏は据え置き用、携帯用など様々な形態がありました。当山にもいくつか保存されています。
これからの時代、自分の念持仏を持つことをお勧めいたします。御守りも念持仏が変化したものといえますが、拝むにはちょっと頼りない気がします。仏さまは自分の気に入ったものがいいと思います。


十輪院 住職 橋本純信

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